乙川優三郎著「かずら野」2017年07月23日

 乙川優三郎の「かずら野」を読んだ。文庫本にして320頁の作品の最後の2頁のために綴られた物語だと思った。その劇的で感動的なラストに向けて延々と続く物語は、裏返せば少々退屈で苛立ちすら覚える展開だった。
 貧乏な足軽の娘・菊子の奉公に出された先の若旦那・富治との出奔と流転の物語である。健気でひたむきで誠実な菊子と短気で身勝手で不実な富治のかりそめの夫婦関係に、菊子の幼馴染みである高潔な人柄の清次郎が絡んでくる。
 好みで言えば乙川作品の中では駄作の部類に入る。ラストにむけた前段の展開が冗長に過ぎるし起伏に乏しい。それでも乙川優三郎という作家の作品は今尚再読するに値する。