高橋克彦著「火怨--北の燿星アテルイ--」2021年05月24日

 高橋克彦著「火怨--北の燿星アテルイ--」を再読した。古代東北の蝦夷(えみし)の若きリーダー阿弖流為の大和朝廷の支配に抵抗して闘いを挑んだ歴史小説である。
 読了してあらためて日本の歴史上の人物としてこれほど魅力的な人物はほかにいるだろうかと思った。信長、秀吉、家康といった英雄たちにも引けを取らない、いやそれ以上に魅力あふれた人物といってよい。これほどの人物が世に広く知られていないのは、ひとえに蝦夷であるという点に起因していると思える。永く大和朝廷の支配の外に立ち続けた蝦夷の歴史が、蝦夷の英雄・阿弖流為を多分に矮小化させている。
 この作品は、大和朝廷から俘囚と侮られ続けた蝦夷の歴史を阿弖流為の闘いを通していいききと伝えてくれる。それは縄文人を始祖とし、蝦夷、アイヌ等、東北・北海道に居住した日本列島の先住民の歴史に重なるように思える。
 日本列島の先住民たちの歴史が日本の歴史そのものだったとすれば、阿弖流為は間違いなく歴史上最も著名で魅力的な英雄だったに違いない。