復刻版③母の世話焼き・・・怒涛の愛2009年09月30日

 ゴールデンウィークである。外資系製薬会社の広島支店勤務の息子が帰ってきた。2ヶ月ほど前、退職をほのめかして両親をうろたえさせた息子である。波乱の幕開けか。父、ことさらさりげなく「会社・・・どうするって?」。息子、「当分続ける」。そばで聞き耳を立てていた筈の母親共々「ホッ」。ひとまず波乱は回避。
 でもって本日は息子のパソコン購入につきあうことに。すかさず母親、「私もついて行く」と断固たる口調。息子の車で親子3人神戸ハーバーランド迄の1時間ほどのドライブ。助手席に陣取った父と息子の新旧サラリーマンの会話。母は後部座席から無謀にも割り込みを試みるが、住む世界の違いはいかんともしがたい。あえなく撃沈。
 到着後、父と息子はパソコン専門店に。全く興味のない母親はひとりで百貨店に。息子は大胆にも話題のソニーのバイオノートを購入。合流後、母は下見しておいた息子のゴルフ用スラックスとドレスシャツを惜しげもなく買ってやる。(確か夫のカジュアルシャツは、近くのコープの見切り後プライスで買っていた)
 帰路につく車に乗り込む。再び母親の断固たる宣言。「帰りは私が助手席に」。狭い車中での息子と並んだポジション。たまに帰郷しても家に居つくことのない息子である。母親にとって久々に息子と会話できる絶好の環境。(息子にとっては逃げも隠れもできない絶体絶命のピンチ)。発車と同時に母親の息もつかせぬおしゃべり攻撃。近所に住む息子の学生時代の友人の話、独身生活の心得、近所の世間話等々・・・とどまるところを知らない。
 後部座席の父も時々相づち程度に参加するも、襲ってくる眠気には勝てず。もうろうとした意識のなかで、父親はなぜか「横綱・曙の一気の突き押し」のシーンを思い浮かべながら呟いていた。『母の世話焼き・・・怒涛の愛』。(1998年5月3日)