労働審判制度のダイナミズム2010年02月22日

 大阪府労働委員会の事務局職員を対象とした研修会に参加した。研修会場には20数名の職員にまじって私ともう一人の委員の姿があった。「労働審判について」をテーマとした大阪地裁判事による講義だった。個別労働紛争が激増する中で、労働審判が労働委員会での審査・調整件数を大きく上回る事件数を扱っている。労働委員会委員としてその背景を知りたいと思った。
 30代にみえる若い判事による2時間の講義は、一種のカルチャーショックをもたらすインパクトある内容だった。全国での労働委員会の扱い件数が年間1500件程度で推移している中で、発足後3年を経過したばかりの労働審判はざっと3500件を数え、年々増大している。その最大の背景は、個別労働紛争の実情に即した、審判制度の柔軟で大胆な制度枠組みにあると思った。
 バブル経済の崩壊やリーマンショック以降の金融危機を経て、非正規労働者が増大するとともに個別の雇用問題が激増した。労働事件が集団的労使紛争から個別労働紛争に大きくシフトした背景である。労働委員会でも個別労働紛争を扱うものの、制度枠組みは本質的に終戦直後に制定された労組法にもとづく集団的労使紛争の解決をめざしたものである。これに対し、労働審判制度は個別労働紛争の迅速な解決を目的としてつくられている。以下は講義の骨子である。
・制度概要は、裁判官である労働審判官と労使各1名の民間の労働問題の専門知識をもつ労働審判員が原則として3回以内で審理し、調停もしくは審判をもって解決を図る。対象となる事件は、争点審理が3回以内で可能な事件で、金銭解決になじむ事件である。代理人は原則として弁護士でなければならない(スピード審理の条件)。
・申立ては1回の書面提出で争点整理が可能になるうよう全てを盛り込んだ内容が求められ、申立て後30~40日以内に第1回期日が指定される(相手側出席の強制力がある)
・労使の審判委員は概ね公平公正な判断で一方の側への偏りは少ない。審判官自身も事前に調べておかなければいずれが労使の代表か分からない場合があるほどだ。
・1回の審理は概ね1時間半程度で、実質的には1回目に調停案提示を行う場合も多く、2、3回目は説得の場になるケースも多い。
・調停もしくは審判で決着するケースが多いのは、訴訟に移行しても結論は同じになる可能性が高いことと、訴訟後の長期にわたる審理に伴う時間的、経済的負荷が大きいことが抑制力になっているためではないか。
 労働審判制度の思った以上に現実的で柔軟・大胆な制度枠組みに驚かされた。代理人の弁護士費用が必須である点はあるものの、頻発する個別雇用紛争の解決手段としては、その有効性と即効性において労働委員会機能を遥かに凌いでいる。それだけに時代の流れの中で労働委員会機能が制度疲労を起こしているのかもしれない。不当労働行為審査事件での膨大な書類提出と長期の審査と引き換えに得られる成果は余りにもむなしいというケースは多々ある。時代の変化と要請に応じた労働委員会機能の抜本的で大胆な改革が求められているのではないか。