映画評「大鹿村騒動記」2011年07月25日

 久々に映画を愉しんだ。「大鹿村騒動記」である。知人のブログで「何としても観たい作品」と綴られていたことに触発されたこともある。かの名優・原田芳雄の遺作となった作品である。独特の雰囲気を漂わせた存在感のある好きな俳優だった。午後1番の労働委員会の会議前に観ておこうと梅田ブルク7の初回上映をネット予約した。
 9時上演の広い6番スクリーンには観客はまばらだった。90分余りの上演時間をしみじみと味わえる良い作品だった。原田芳雄、大楠道代、岸部一徳が織りなす熟年男女の三角関係が縦糸なら、300年続く実在の伝統芸能「大鹿歌舞伎」が横糸である。地デジ化や村を二分するリニア新幹線騒動など今日的な話題が盛り込まれ、それが一層300年の伝統芸能の重さを浮かび上がらせる。
 主役三人の演技は見事というほかはない。三人三様の存在感が滲みでる。今は亡き原田芳雄がかもしだす男の屈折と優しさは鬼気迫るものがある。あの年代であれほどサングラスの似合う俳優はもういない。「相棒」の小野田官房長役でもお馴染みの岸辺一徳の軽妙でリアリティのある演技はこの作品でもいかんなく発揮される。この俳優は今や日本映画界に欠かせない名バイプレーヤーにちがいない。大楠道代を久々にスクリーンで観た。かって安田道代と名乗っていた時代の妖艶な印象が強烈だった。それだけに60代半ばにさしかかった今の姿との落差は大きかった。認知症の症状が出入りする難しい役柄をなんなくこなしている。時折垣間見せるかつての妖艶さがだてに年輪を重ねているわけではないことを物語っている。