北方謙三著「絶海にあらず」上巻2014年04月16日

 北方謙三著「絶海にあらず」上巻を読んだ。彼の歴史小説にすっかり嵌まっている。これまで北方謙三の南北朝もの(いわゆる北方太平記)を読み継いできた。それらの主人公は南朝方の高貴なヒーローたちであり、壮大な使命や夢の物語だった。この作品の舞台は平安中期で、藤原純友の乱をテーマとしている。主人公・純友は身分卑しき「藤原一族のはぐれ者」である。これまでの南北朝ものとは物語の風景を異にする。
 はぐれ者・純友はふとした幸運で伊予掾に任ぜられ、伊予に赴任する。あるがままに自由に生きたいと願う純友の前に広大で果てしない海が広がる。純友は、海こそが自分の生きる場所と定め、海の民として生きることを決意する。
 この作品は著者の歴史小説でも二番目に新しい。それだけにこの作品にはそれまで培った歴史小説の書き手としての手法を駆使して、作者自身の生き方の在りようが色濃く投影されているように思えた。
 団塊世代に属する北方謙三は、学生時代には全共闘運動に身を投じた。その体験が、純友の自由な生き方を求め権威や権力に反発し、ついには海賊として朝廷との対決にまで至る物語にオーバーラップする。
それはそのまま作者と同世代といってよい私の、時代の気分を共有する北方作品への共感の背景でもある。