NHK特集ドラマ「お買い物」2009年02月14日

 夜9時からのNHKの特集ドラマ「お買い物」を観た。新聞の番組欄のサブタイトル「老夫婦の東京珍道中・・・ゆっくりだから見えてくる?」のコピーが何故か気になった。リタイヤ生活に入り、「老夫婦」や「ゆっくり」という言葉がしみとおる年代になっているのだろう。
 番組冒頭、田舎の古い民家に暮らす80歳前後とおぼしき老夫婦のさりげない日常風景が映し出される。おじいさんの「エ~ッと」「アレ何と言ったか?」というゆっくりとした語り口に、少し若くてしっかりしている風なおばあさんがとぼけた口調で応じる。なんとも心和むゆったりした描写が流れていく。
 中古カメラの展示即売会のDMが届いた。東京渋谷が会場である。カメラ趣味だったおじいさんの駄々っ子のような言い分で二人は20年ぶりに東京に行く。展示会でおじいさんは8万円のカメラに魅せられる。おばあさんもしぶしぶ同意して結局買ってしまう。おばあさんはおじいさんの愛機だったカメラが自分の病のために売り払ったことを思い起こしていたのだ。ホテル代に窮した二人は孫娘の部屋に転がり込む。今時の娘そのままの孫娘である。その素っ気なさにこもる優しさが見事に演じられる。人間は歳をとるほどに幼児に帰るということが伝わってくる。おじいさん、おばあさんを孫娘があやしているような微笑ましい風景である。買ったばかりの中古カメラでおじいさんがそうした風景を写し撮っていく。亡くなったおじいさんの仏前でその時の幾枚もの写真を眺めながらおばあさんと孫娘が語り合っている。おじいさんの死さえも、さりげない日常生活のひとこまであるかのように静かにドラマの幕が引かれる。
 永年に渡って培われた夫婦の情が醸し出す日常生活を、見事に描き切った味わい深いドラマだった。