広井良典著「定常型社会」(その2)2014年09月13日

 著作の第1章で「経済」「福祉」「環境」基本的な枠組みの整理が提示され、第2章以下では、それを踏まえた「これからの社会の基本的なありよう」が語られる。第2章では、その大きな柱である「社会保障」ないしは「富の分配のあり方」が描かれる。
 最初に日本の社会保障の特徴が次のように指摘される。①「規模」については、社会保障給付が先進諸国に比べ相当に「低い」水準にある。②「内容」については、社会保障全体に占める「年金」の比重が先進諸国の中で最も大きく、逆に「失業」「子ども」関連給付の比重が際立って低い。③「財源」については、相当額の税が部分的に投入され、”税と保険の渾然一体性”ともいうべき特徴を持っている。
 日本の社会保障水準の低さの背景として二つの「インフォーマルな社会保障」が低さをカバーしてきた点が指摘される。ひとつは終身雇用制の下で社員だけでなく家族の生活保障をカバーしてきた「カイシャ」である。今ひとつは戦後の日本社会で強力なコミュニティとして機能してきた「核家族」である。ところが「カイシャ」については、終身雇用が崩れ、雇用の流動化が進み、非正規労働が増加する過程で、「核家族」については、女性の社会進出や個人単位化の中で急激に「コミュニティ」の実質を失いつつある。こうした「インフォーマルな社会保障」の希薄化の下で今求められているのは新たな「安全網(セイフティー・ネット)」である。
  その上で、今後の社会保障の方向性として二つの視点が提案される。ひとつは「医療・福祉重点型の社旗保障」という点であり、市場の失敗が起こりやすい分野の医療や福祉は公的給付はしっかり維持した上で「選択と競争」原理の導入による効率化をはかる。年金については、厚生年金の所得比例部分をスリム化し、基礎年金部分を現在よりも厚めにする。今ひとつは「個人のライフサイクルを座標軸とする社会保障」という視点である。もっぱら「高齢者」給付に焦点があてられがちな社会保障の全体ビジョンを、高齢者だけを切り離して考えるのでなく、「子ども(十分な子育て支援や教育など)-大人-高齢者(医療・介護及び基本的な生活保障としての厚めの基礎年金)」というライフサイクルを座標軸とした合理的でわかりやすい社会保障体系が提案される。