高橋克彦著「炎立つ(壱)」2015年05月24日

 北方謙三に続いて嵌まってしまった作家が高橋克彦だった。「風の陣」「火怨」に続いて「炎立つ」の全五巻を入手し、その壱巻を読んだ。いずれの作品も東北地方が舞台であり、蝦夷とその後裔たちと大和朝廷との葛藤や闘いがテーマである。岩手県出身で盛岡市在住の著者は生粋の東北人である。それだけに東北を愛し蝦夷に限りない共感を寄せる。一連の朝廷との闘いの物語は、蝦夷の側に立った視点で描かれる。
 「炎立つ」は、平安時代後期の奥州を舞台とした「前九年の役」をテーマとした物語である。前九年の役は学生時代の受験勉強の史実の断片として記憶に残る程度だった。それがこの作品を通して、阿弖流為を先駆けとする蝦夷(この時代には朝廷側からは俘囚と呼ばれて蔑まされていた)の朝廷に対する永い壮大な闘いの一環であることを知らされた。
 平泉を拠点に東北に一大勢力を築きあげた藤原氏の前身である安倍一族の朝廷との攻防の物語である。陸奥国の奥六郡に柵を築き、半独立的な勢力を形成していた安倍一族に対し、陸奥守・藤原登任が数千の兵を出して安倍氏懲罰を試みる。壱巻では、この闘いに至る経過と、朝廷軍が「鬼切部の戦い」によって阿倍氏棟梁・頼良の次男・貞任率いる軍に壊滅的な敗北を喫するまでの経緯が描かれる。
 前作「火怨」同様に文句なしで楽しめる作品である。五巻に及ぶ大作の今後の展開を期待しながら読み継ぎたい。