北方謙三著「黒龍の棺(上)」2016年03月09日

 北方謙三著「黒龍の棺」上巻を読んだ。新選組副長・土方歳三を描いた歴史小説である。豪快な親分肌の局長・近藤勇と並び称される土方は冷徹な参謀のイメージが強い。土方ほどナンバー2としての存在感のある歴史上の人物はいないのではないか。そんな印象の人物を北方謙三が切り込んだ。
 幕末京都の池田屋事件で物語の幕が開く。薩長の討幕派と新選組を中心とした幕府側との抗争が主として新選組の主要人物たちの目を通して描かれる。
 幕末維新の物語は司馬遼太郎が独自の史観で既に描き切っている。個人的にもそのほとんどを読了し、その実証性に富んだ説得力に共感した。それだけにこの北方謙三の司馬史観とは異なる幕末維新に対する独自の解釈に注目させられた。
 上巻の巻末近くになって坂本龍馬が構想する壮大な計画がテーマとなって物語が展開する。幕府と討幕派との抗争で内乱が勃発しかねない時勢である。米英仏露の列強は虎視眈々と植民地化を謀ろうとしている。そうした情勢下で内乱を避け植民地化を阻止して独立国家としての日本の未来を切り開くための計画である。勝海舟、小栗上野介らの幕府の開明派要人たちは、坂本の計画を下敷きに将軍・徳川慶喜を助けて「不戦」を貫き、蝦夷地での徳川家による新国家樹立を模索する。
 新選組の行末を冷徹に見据える土方は、勝や小栗らとの親交を通じてその計画に未来を託そうと考える。
 何とも壮大な物語の展開である。