折返し点2007年03月07日

 手術の前日である。昨日の医師の治療説明を聞き終え自分なりに整理してみるうちにあるイメージが浮かんできた。今私は大病を得て退院というゴールに向けてマラソンコースを駆けている。12月20日にこの病を初めて知らされて以降2カ月半が経過した。この間数多くの検査を受け最終的にようやく病名と症状と病期が確定した。20日前の指先切除の手術さえ病理検査のための検査だった。その意味では明日の手術は初めての本格的な治療のスタートといえる。手術という外科的治療の後には抗ガン剤投与の化学療法も控えている。マラソンコースで言えばようやく折り返し点を迎えたというところか。退院後も何回かに分けた化学療法が待っており、完治に向けた新たなレースも始まる。治療後5年間は再発に留意する期間と考えておく必要がある。息の長いレースである。レースのコースガイドは用意されている。とはいえゴールに至るレース展開はランナーの体力や気力に委ねられている。タイムにこだわればリタイヤのリスクも大きくなる。何よりも完走を目指した粘り強さが肝要と心掛けよう。
 朝から麻酔科の医師の問診があり、担当医の腋下リンパ節の触診があった。看護師に執刀部分である脇毛も剃ってもらった。手術に向けた準備が着実に進められている。
 夕方、気分を和ませる出来事もあった。エレベーターホールであの病の赤ちゃんを抱えた幼い夫婦の主人を見かけた。両手に余るスーツケースやボストンバックを抱えている。明らかに退院モードである。「退院ですか?良かったですね。大変だったでしょう」と思わず声をかけた。「ありがとうございます。夜は迷惑をかけました」と少年が父親らしいきちんとした言葉を返してくれる。「お若いのによく頑張りましたね。ところでお幾つなのですか?」私のぶしつけな質問にも明るく答えてくれる。「二人とも15歳なんです」。予想を越えた若さに驚きを隠せなかった。「これからも子育て頑張って・・」ごく自然について出た言葉だった。