ももかちゃんの笑顔の謎2007年03月19日

 入院中の万歩ウォーキングがけなげにも続いている。途中でしばしば顔を合わせる母娘がいた。若い母親は1歳前後の女の子のよちよち歩きを見守ったり、抱っこしながらあやしたりしている。すれ違う時、いつも女の子はなぜか私をじっと見つめている。ある時、髭に覆われた口元をほころばせて手を振った。なんと女の子はこぼれるような笑顔をみせてバイバイを返してくれたのだ。すっかりうれしくなった。ウォーキング途中で女の子に会えることを願うようになった。病室の前で母娘と出くわした時、病室の名札で女の子が「ももかちゃん」だと知った。
 昨晩、談話室で母親の傍らでももかちゃんをぎこちない手つきであやしている男性を見かけた。父親に違いない。父親の口元には口髭と顎髭が蓄えられていた。私に向けられたももかちゃんの予想外の笑顔の謎が解けた。今朝、ウォーキングで出会った母親に声をかけた。「パパも髭を生やしているんですね」。母親が笑顔で答えた。「そうなんです」。髭面に興味を示す愛娘の無邪気さをお見通しと言った風情だ。
 ところで病状である。右腋下に挿入したチューブから排出される体液量は、術後8日目からようやく減少に転じた。3日目に60mlのピークが5日間続いた後の減少だった。11日目の今朝は21mlまでになっている。チューブ取り外しの10ml以下まであと一息だ。
 昼過ぎにはガーゼ交換があった。主治医から右手親指切除後初めて自分自身で右手の手洗いをやってみるよう指示された。防水シートに覆われた第一関節から先のない親指のノッペラボウな全貌を初めて凝視した。一瞬の胸が詰まる。親指のない右手のイメージは幾度も想像していた筈だった。確かな想像と実際に目にする現実の埋めようのない乖離を知らされた。この一瞬の精神的ダメージからの立ち直りは意外と早かった。この瞬間をブログでどう表現しようかという思いが意識を切り替えてくれた。IT時代に入り文章表現の手立てが親指主体のペンから親指不要のキーボードにシフトしていることのありがたさに思い至った。人差し指中心の不器用な入力レベルにあることすら今となっては幸いしていると強がった。
 ガーゼ交換の処置の際、主治医から切除したリンパ節の病理検査結果がもたらされた。「転移はなかった」との3人の担当医全員の所見だったとのこと。『禍福はあざなえる縄のごとし』苛酷な現実とともに、いい情報もついてきた。