同室者たち2007年03月17日

 4人部屋の病室が昨日から満室になった。向かいのベッドの68歳のFさんは私の入院の翌日に入院し、1カ月以上に及ぶルームメイトとなった。足指の水虫から入り込んだバイ菌が悪化し結局指先切除手術を施された。昨年11月にもこの病院で心臓のバイパス手術を受けたという。腎臓も悪く常時血糖値を測りインシュリンを打つ毎日だ。既往症とのバランスを取りながらの術後の治療は、年齢ともあいまって予想以上に長引いているようだ。子供の頃に両親を亡くし、親戚を転々とした。一時はサンパウロにも在住していたというFさんの波瀾万丈の人生を聞かされた。週3回は見舞ってくる伴侶が、近づいた内孫の宮参りの仕度を伝えている。同伴できないことが目下の悩みという口ぶりに彼の現在の幸せを垣間見る。話し好きである。油断をすれば長時間拘束の罠に嵌まる。いかに巧みにその罠をかいくぐるかが私の目下の悩みである。
 隣のベッドの54歳のOさんは、私と同じ悪性腫瘍が足裏に見つかり1週間前から入院している。入院の際は一人だった。家族はなくずっと独り身だったという。若い時は気楽で良かったがこの年になると寂しくもあると本音をのぞかせる。巨漢である。その体躯から繰り出されるいびきは凄まじい。睡眠剤の服用が私の日課となった。
 昨日入院の70歳前後と思われるIさんの詳細は知らない。午前中に奥さんだけが入院準備に訪れ、本人は午後2時頃一人でやってきた。先住者たちに挨拶をするでもなくさっさとベッドに入り込み、話の接ぎ穂がない。以来、同室の誰とも口を聞いた様子はない。小柄で細みの体からは神経質そうな雰囲気が漂っている。昨日の深夜、フト目が覚めた。Oさんのいびきの合間にかなり大きな独り言が聞こえた。寝つかれないIさんのOさんへののしりだった。
 狭い病室の4人部屋に様々な人生がこめられている。同室者たちがおりなす人間模様や葛藤がある。