藤沢周平著「神隠し」2019年02月06日

 藤沢周平著「神隠し」を再読した。市井もの9編、武家もの2編が納められた短編集である。
 300頁足らずの文庫本に11編もの作品が納められているのだから一作品平均25頁程度の短編ばかりである。「三年目」に至ってはわずか6頁の短さである。これでよく物語が紡げるものだと思うが、ちゃんとテーマが備わった情緒豊かな作品に仕上がっている。
 市井もの中心で武家ものが少ない短編集である。この点について解説氏は興味深い作者のことばを記している。「私はなんとなく市井ものの方が書きやすいような気がしている。武家社会というものは消滅したが、市井の暮しというものは現在に続いて、しかもいまの世相とかさなりあう部分があるだろう、という意識が、幾分筆を軽くするようである」。
 なるほどと合点した。今は存在しない武家社会を舞台に描くには様々な制約を念頭に特別な舞台設定が求められるのだろう。その分創造の世界は羽ばたきを縛られるに違いない。
 この短編集には市井ものを中心に直木賞を受賞した後の作者の見事な羽ばたきに満ちている。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック