山本兼一著「火天の城」2011年03月28日

 山本兼一の「火天の城」を読んだ。「利休にたずねよ」に続く2作目の山本兼一作品だった。知人のブログでこの作品が、『雷神の筒』『白鷹伝』と並ぶ「信長テクノクラート三部作」の一冊だと知って、楽天ブックスでまとめ買いした。「利休にたずねよ」を読んで久々に骨太で新鮮な歴史小説に出合ったと思った。  西田敏行主演で映画化された作品であり、空前の巨城「安土城」の築城物語である。一か月前にケン・フォレットの「大聖堂」を読み終えたばかりだった。中世イングランドと近世日本という時代と世界を異にする舞台ながら、巨大建造物建築という共通のテーマを扱った物語を相次いで読んだことになる。「火天の城」が忠実にきめ細かく建築そのものを追っているのに対し、「大聖堂」は建築過程と同時進行させながら建築に関わる人々の時代背景を織り交ぜた様々なストーリーを展開させている。日本的繊細さと西欧的雄大さの違いが見てとれた。  それにしても「火天の城」で展開される番匠(大工)の世界は、日本的「匠」の物づくりの本質を見事に描き切っている。築城とは城大工だけのものでなく、石垣づくりの「石工」、木曾檜を切りだす「杣」、木材を挽く「木挽き」、屋根を葺く「瓦大工」、壁塗りの「左官」などの職人たちの総合技術の結晶である。信長という日本史に傑出した人物のプロデュース抜きにはあり得なかった築城でもある。それは同時に日本の「匠」の技を競わせ総合化させ根づかせる上でも大いに貢献したと思わせる。  山本兼一という比較的若い独特の手法を駆使する歴史作家の真骨頂を思わせる作品だった。