乙川優三郎著「逍遥の季節」 ― 2012年10月27日

先日購入したばかりの乙川優三郎著作の「逍遥の季節」を読んだ。 乙川優三郎は、存命している時代小説作家の中で最も好きな作家である。藤沢周平亡き後の第一人者だと思う。その作者の2009年9月著作の最新作で、時代小説の7編を納めた短編集である。全作品が、三味線、茶道、画工、根付、糸染め、髪結い、活け花といった芸道をテーマにし、主人公を全て女性とした物語である。何よりも著者のそれらの芸道についての造詣の深さに驚かされた。
それぞれの芸道を極めようとしてもがき、葛藤する女性の生きざまを縦糸に、男や師匠や友人や家族とのしがらみを横糸に紡がれる物語は、艶やかで情感に満ちている。特に巻頭の「竹夫人」が良かった。裕福な魚問屋の娘・奈緒を主人公とした物語のようだが、実際の主人公はその祖母・澄である。奈緒にとって、芸者上りの澄は死んだ祖父の妾で、父の母親である。60を過ぎた澄は、踊りと三味線の稽古を生業に気ままな暮らしを送っている。若いときから芸事に身を入れつづけて美しく老いている。澄の生き方や言動の描写がことのほか魅力的だった。
国文学者の島内景二と言う人の解説も良かった。乙川優三郎の作品を評して「文学が文章道という『芸』であることを、見事に証明している」という一節と、「登場する何人もの魅力的なヒロインは、乙川優三郎の魂が紡ぎ出した芸術の女神なのだと思う。この短編集には、芸術の女神が宿っている。彼女たちは、芸術の奥深さに打ちひしがれた男たちの夢が作り出した『幻影の人』である」という一節が印象的だった。
それぞれの芸道を極めようとしてもがき、葛藤する女性の生きざまを縦糸に、男や師匠や友人や家族とのしがらみを横糸に紡がれる物語は、艶やかで情感に満ちている。特に巻頭の「竹夫人」が良かった。裕福な魚問屋の娘・奈緒を主人公とした物語のようだが、実際の主人公はその祖母・澄である。奈緒にとって、芸者上りの澄は死んだ祖父の妾で、父の母親である。60を過ぎた澄は、踊りと三味線の稽古を生業に気ままな暮らしを送っている。若いときから芸事に身を入れつづけて美しく老いている。澄の生き方や言動の描写がことのほか魅力的だった。
国文学者の島内景二と言う人の解説も良かった。乙川優三郎の作品を評して「文学が文章道という『芸』であることを、見事に証明している」という一節と、「登場する何人もの魅力的なヒロインは、乙川優三郎の魂が紡ぎ出した芸術の女神なのだと思う。この短編集には、芸術の女神が宿っている。彼女たちは、芸術の奥深さに打ちひしがれた男たちの夢が作り出した『幻影の人』である」という一節が印象的だった。
最近のコメント