共著「新自由主義か新福祉国家か」(その3)2012年10月15日

 単行本「新自由主義か新福祉国家か」の第2章「世界同時不況と新自由主義の転換」の書評である。本章は、神戸大学発達科学部の二宮厚美氏の執筆である。
 冒頭、新自由主義がもたらした日本での三面での帰結が述べられる。「社会的破局」(貧困・格差社会が深刻化し国民多数の雇用や生活を脅かす破局的な事態が進行)、「経済的破綻」(2008年から世界をまきこんで進んだ金融恐慌と世界同時不況)、「政治的転換」(2009年夏の総選挙と鳩山政権成立)である。
 続いて、新自由主義のもたらした「社会的破局」と「経済的破綻」が、「アメリカ発金融恐慌→世界同時不況→日本の過剰生産恐慌」という現実によって実証されたとして、新自由主義がなぜこの「21世紀グローバル恐慌」を引き起こしたのかが三つの論点から説かれる。第1は、「新自由主義の貫徹→貧困・格差社会化の進行→生産と消費の矛盾」という流れである。格差社会が、「貧困拡大」に伴い大衆消費の縮小を招き、同時に「過剰富裕」による過剰投資と過剰生産を招くという矛盾の指摘は頷けた。第2は、新自由主義のもとでは資本は、貨幣資本主導で独自の循環形態をとるという点である。生産や販売に要する費用は無駄なコストとして切り捨てられ圧縮される。第3は、新自由主義的蓄積は「経済のグローバル化」のもとで進んだという点である。それは、市場が地球規模で拡大し一体性が強まったこと、世界市場の開発が多国籍企業・銀行を主体に進められたこと、ICT革命(情報通信革命)等の新たな技術のもとで進んだことを意味する。
 転じて、この世界同時不況の引き金となったアメリカの住宅バブルの分析が解説され、その主役を演じたアメリカ金融資本が、新自由主義のもとで従来の金融政策ではコントロール不能の始末に負えない金融モンスターに変貌したと断じる。
 最後に、政権交代後の日本の現状を、①新自由主義による経済的破綻の解決に向かっていない②経済的破綻による社会的破局がますます深刻化しつつある③経済的破綻が財政危機を深刻化しつつあると指摘する。その上で新たな福祉国家に向けた次の三つの柱が提案される。①現金給付型の所得保障(生活扶助、年金、児童手当、最低賃金等で貨幣所得のナショナル・ミニマムを保障する)②現物給付による社会サービス保障(保育・教育・介護・医療・看護等の社会サービス分野の公的保障の拡充)③生存権保障のための公的規制・基準・ルール化(いわゆるルールある市場経済)。
 新自由主義の経済学的な知識を初めて学んだ気がした。それなりに説得力のある内容だった。ただこれを克服する上での処方箋は、アウトラインが述べられた程度でまだまだ闇の彼方の感が深い。