西宮文化協会講演会「村上春樹のことなど」2013年10月25日

 西宮文化協会の10月講演会に出かけた。会長の山下忠男さんのお誘いで今年から会員になっている。市民ミュージカル劇団『希望』後援会の定期総会の講演を山下会長にお願いしたご縁だ。
 文化協会の月例講演会も初めてなら会場の西宮神社会館を訪ねるのも初めてだった。なかなか風格のある立派な建物だった。講演会の講師は西宮芦屋研究所の小西巧治さんである。現役時代の友人の友人ということで国立文楽劇場を案内してもらったり、小西さんの山口の知人を紹介してもらったりといったお付き合いがある方だ。
 1時半から始まった講演は、「阪神沿線の文学---村上春樹のことなど」がテーマだった。50名近い聴衆を対象にプロジェクターを駆使してビジュアルで丁寧な講演が行われた。「西宮の文化を育てた風土」ともいえそうな前半と、「村上春樹と西宮」といった後半で構成されていた。
 個人的には前半が興味深く勉強になった。山口町在住の西宮市民になって30年になる。とはいえ山ひとつ越えた身には市の中心部を占める阪神間の西宮文化に馴染みは少ない。今回の講演でそのカルチャーのコアのようなものが理解できたように思った。けだし「造り酒屋の旦那衆が育んだ文化や風土」であり「西宮神社」「西宮文化協会」「市内各所の美術館や文化施設」がこうした風土づくりに貢献している。50年前の日石工場誘致を争点にした「都市の内乱」が、酒造家たちに擁立された誘致反対の市長当選で終止符を打った出来事の意義は特に印象敵だった。経済優先の開発か自然保護かというテーマに西宮市民は後者を選択した。その選択を謳ったものが「文教住宅都市宣言」だった。阪神間の市民には常識かもしれないそうした理解を北部在住者として初めて知った。奇しくも今年、宣言50周年を迎えた。あらためてその精神を噛み締めたい。
 後半で面白かったのは小西さんの村上春樹氏との関わりだった。単なる村上ファンではない。幼少時代に1歳違いの春樹少年と西宮神社などの同じ遊び場を共有し同じ風景を眺めて育ったことが原点である。そんな想いから読んだ村上作品に魅了され、送った感想文に大作家ご本人から丁寧なメールが返されたという。そうした経緯が小西さんをして著名な村上春樹研究者にさせている。
 それにしても阪神間西宮の文化的水準の高さをあらためて教えられた。多彩な人材と人脈に支えられた自由な精神風土を羨ましく思った。