有間皇子異聞③有間皇子処刑の背景2014年02月10日

 三田の古代史研究者である森脇さんの六甲タイムスへの平成3年7月26日付寄稿文に興味深い記事があった。有間皇子処刑の背景についての言及である。
 「(有間皇子処刑の背景は)中大兄の野望が大きな原因だっただろうが、その血筋にも大きな意味があったと考えられる。それは阿倍氏である小足媛の子だったからである。当寺の皇族は、いわゆる天孫系、天照大神の系統によって占められていたが、阿倍氏は国津神系であった。(略)阿倍氏は以前から日本に居住していた民族の末であり、アベとはアイヌ語で火の意味があり、古代の火を信仰する一団の姓氏である。(小足媛の父)阿倍倉梯麻呂は、アイヌ系ではなかったようだが、同じ頃からの先住民族であった。その血を引く有間皇子が天皇になるというのは天孫系にとっては許されないことだったのであろう」
 孝徳天皇の皇子として有力な皇位継承者であった有間皇子を抹殺した背景を、単に中大兄皇子の野望ということでなく渡来系と先住民族系の権力闘争の一環として捉えた卓見だった。