北方謙三著「陽炎の旗」2014年02月27日

 北方謙三の著作「陽炎の旗」を読んだ。北方作品はこれが4作目だったが、3作目の「武王の門」の後日譚ともいうべき作品だった。それだけにストーリー展開での新鮮味は欠けるものの、物語性の豊かさと多彩な登場人物の個性あふれる描き方は秀逸だった。
 この作品を通して注目した点が二つある。ひとつは、「血(血筋)」というテーマである。主人公・来海頼冬は足利尊氏の孫であり、三代将軍義満の従兄弟である。主人公にも等しい月王丸と竜王丸は、前作の主人公・後醍醐天皇の皇子・懐良(かねよし)親王の子と孫である。それぞれが武門の棟梁や天皇家の血筋ゆえに葛藤し悩み闘うことの定めを負って生きている。それ自体がこの作品のテーマとも思えた。
 今ひとつは、足利義満という人物像である。先日、BS歴史館で「足利義満」を観た。それほどの人物とは思っていなかった義満を「空前の混乱に立ち向かった権力者」として描いた番組だった。「陽炎の旗」に登場する義満も主人公たちに引けを取らない圧倒的な存在感を持った人物として描かれている。義満という人物の歴史的存在感を再認識させられた。