乙川優三郎「夜の小紋」2020年03月20日

 乙川優三郎の5編の短編時代小説を収録した「夜の小紋」を再読した。江戸時代という封建制の制約の大きい社会で生きる女性たちを鮮やかに描いた作品集である。
 舞台背景は江戸時代ながら描かれる女性の生き方や心情は時代を越えて今を生きる私たちにも共有できるものだ。乙川優三郎という男性作家の女性の心情に奥深く分け入って理解し見事に描写できる力量に感服する他はない。
 とりわけ興味深く読んだのは72歳のひとり住まいの女性を主人公とした「虚舟」という作品だった。高齢社会の独居高齢者問題という今日的テーマを江戸時代に置き換えて描いている。
 一人娘を嫁がせ、夫に先立たれて15年になる主人公は、物売りでささやかに生計を立てながら老いのひとり暮らしを楽しんでいる。一日の終わりにはよく働いた自分のご褒美に毎日二合の晩酌をちびりちびりと味わうのを無上の楽しみにしている。娘の再三の同居の勧めにも「自分はいま人生で最も自由なときを生きている」とにべもない。
 味わいのある5篇の短編を読み終えた。

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