藤沢周平著「闇の傀儡子」上・下2012年05月09日

 藤沢周平の伝奇時代小説の傑作といわれる「闇の傀儡子」上・下二巻を再読した。44歳の遅咲きデビューした藤沢周平の51歳の作品である。その作風に質的変化が見られるようになった「用心棒日月抄」シリーズや「隠し剣」シリーズの延長線上の作品に位置し、それまでの暗さの漂う重いテーマの作品を脱した明るい色調の娯楽作品である。
 ただ個人的には直前に再読した「用心棒」や「隠し剣」ほどの評価は下せない。読み終えて、「用心棒」の魅力的な登場人物の織りなす機微や「隠し剣」の短編に凝縮された緊張感といった作品の特性が伝わらない。伝奇小説というジャンル自体に馴染めないところがある。
 徳川三代将軍・家光の弟の駿河大納言忠長の流れを組む徒党・八嶽党を巡る闘争がテーマである。御家人くずれの主人公・鶴見源次郎と八嶽党との偶然の出合いから物語が始まる。ミステリー仕立ての物語が奔放に展開し舞台を広げていく。愉しんで読めるという点では文句なしに一級の娯楽作品である。