北方謙三著「絶海にあらず」下巻2014年05月06日

 北方謙三著「絶海にあらず」下巻を読んだ。平安中期に瀬戸内海を舞台に乱を起こした藤原純友を主人公とした物語である。上巻では伊予掾に任ぜられ、伊予に赴任した純友が、海こそが自分の生きる場所と定め、海の民として生きることを決意するまでが描かれている。
 下巻では、海の民として生きることを決意した純友が、藤原北家の支配する朝廷に何故、どのように抗してその水軍と対決するに至ったかをつぶさに描いている。
 北方謙三の歴史小説には、山の民や海の民などの虐げられた漂泊の民がしばしば登場する。著者の物語のモチーフには、そうした民に象徴される時の権威や権力から抑圧され排除された人たちへの限りない共感がある。「純友の乱」とは、そうした民のやむにやまれぬ権力との闘いとして描かれる。
 読み終えて興味深いテーマについての著者のスタンスを知った。ひとつは同時期に発生した「平将門の乱」と「藤原純友の乱」との関わりだ。「承平天慶の乱」と総称される二つの乱は、将門と純友が共同謀議して朝廷に反乱したとする説がある。著者はこの共同謀議説を一顧だにせず、将門の乱はあくまで一族間の私闘だったとし、純友の乱は藤原北家の支配に抗した民の闘いという立場をとる。
 上下2巻の900頁にも及ぶ長編の歴史小説を心ゆくまで満喫した作品だった。