高橋克彦著「天を衝く・全3巻」2021年12月22日

  高橋克彦著「天を衝く・全3巻」を読了した。著者の「炎立つ」「火怨」に続く陸奥(みちのく)三部作と呼ばれる作品の最終巻である。
 「炎立つ」と「火怨」が蝦夷と朝廷の葛藤を描いたものであるのに対して、この作品はサブタイトルに”秀吉に喧嘩を売った男・九戸政実”とあるように蝦夷との関りは皆無である。個人的には蝦夷に対する限りない共感がある。それだけにこの作品が他の2作品と並んで三部作とされることに違和感がる。舞台となった時代は、蝦夷の系譜に連なる奥州藤原氏の滅亡から400年後の戦国末期である。既に奥州には蝦夷が歴史を刻む痕跡は皆無である。
 それでも陸奥・南部を根拠にした九戸政実という戦国武将の物語は痛快で存分に楽しめた。政実率いる九戸党は、ほぼ天下を手中に収めた頃の秀吉軍10万の軍勢を向うに回してわずか5千の兵をもって闘いを挑んだ。その無謀と言うしかない闘いに至る経過がつぶさに語られる。読者はそのやむにやまれない経過に寄り添いながら、切腹すら許されない打ち首という政実の最後を爽やかな気持ちで受入れる。読者に受け入れがたい悲劇の結末を、読者に素直に受け入れさせる作者の手腕に脱帽した。

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