映画評「小川の辺」2011年08月05日

 異業種交流会に久々に出席することにした。夜6時半からの会合だけに大阪まで出かけるにはもったいない。午後の映画を愉しもうとネット検索して、大阪ステーションシティーシネマで上映中の「小川の辺」を予約した。開館間もない真新しい劇場のゆったりした席で二日連続の映画を愉しんだ。
 藤沢周平の同名小説で新潮文庫の「闇の穴」に所蔵された原作を読んでいた。http://ahidaka.asablo.jp/blog/2011/07/11/5950730 原作自体は物語の奥行きが感じられず不満が残った。ただ映像化にはもってこいの作品という印象があった。
 原作の不満やネットレビューのマイナー評価などから、それほど期待していたわけではない。しかし観終えた感想は納得だった。原作を読んでいるだけにストーリーを追う必要はなくその分じっくり映像や音響を味わえる。山形地方と思われる日本の自然の美しさが余すところなく展開される。風景映像のBGMも心地良く耳に入る。ラストシーンの決闘の舞台の「小川の辺」の隠れ家も原作でイメージしていた風景にピッタリの映像だった。
 キャスティングでは主人公・戌井朔之助役の東山紀之の抑制の効いた演技が実に良い。母役の松原千恵子、妻役の尾野真千子(初めて知った女優だった)の二人の女優陣もしっかり役柄をこなしている。問題はヒロイン田鶴役の菊地凛子だった。役柄の激しさを割り引いてもその現代風の風貌や振る舞いは、時代劇のヒロインには似合わない。父親役の藤竜也も時代劇の舞台では浮いている印象が拭えない。
 演出にも最後の最後で不満が残った。朔之助が家士・新蔵に妹・田鶴を託し別れを告げるシーンだ。夫を討った兄に闘いを挑んで退けられた田鶴が新蔵とともに兄を見つめる。その憎悪の瞳が別れの瞬間に感謝の風貌に変わると思った。が最後までその演出はない。原作はその点は触れていない。読後の余韻がそう期待させたのだが…。原作に表現されない点の映像化こそが映像作家の領分だという期待は見事に裏切られた。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック