新潮社編「歴史小説の世紀(地の巻)」2022年05月05日

 蔵書処分をしていた時に見つけた気になる本があった。「歴史小説の世紀(地の巻)」という800頁もある厚い文庫本だった。27人の作家の短編歴史小説27編を収録したものだ。21人は私の知っている作家だが、6人は知らない作家だった。各作家がそれぞれにどのような歴史小説を描いているのか興味をそそられ、読み始めた。そして丸一カ月かけてようやく読み終えた。 
 読了後の感想は正直言えば落胆したということになる。平均すると一編当り30頁にも満たない作品集である。この程度の短編で歴史小説を描くには無理がある。よほどテーマ性に優れたものでなければ短編としてのインパクトはない。実際、これはと思わせられたキラッと光る作品には遭遇しなかった。
 ただ、しみじみとした味わい深い作品と思えたのは、藤沢周平のはしり雨」と平岩弓枝の「ちっちゃなかみさん」だった。これとても厳密に言えば歴史小説ではない。明らかに時代小説だった。