マラソンはドラマ・・・文字通りの展開2009年03月08日

 午後0時15分、世界陸上の選考会を兼ねた名古屋国際女子マラソンの号砲が鳴った。前半早くから先頭集団が4人に絞られた。キレル(ケニア)、白雪(中国)の外人勢と新谷、藤永の日本勢だ。その中でも藤永の走りが明らかに苦しい。先頭3人にしばしば置いていかれる。口を開けサングラスに隠された顔の表情がいかにも苦しげだ。ところが、そのつど、いつの間にか先頭集団に追いついている。瀬古、有森の解説者二人がその驚異的な粘りに舌を巻く。先頭集団4人の動きの少ない、それだけに面白みに欠ける展開が坦々と続く。
 動きが出てきたのは30Km付近だった。キレルがスパートする。新谷だけが何とかついて行く。少し並走した後、新谷が一気にギアチェンジした。見る間にキレルを突き放して、ぐんぐん差を広げる。21歳の端正な顔だちの魅力いっぱいの若きアスリートである。高橋尚子の再来とも言われる期待のランナーである。誰もが日本の女子マラソンの明日を担うニューヒロインの登場かと期待した筈だ。
 その新谷の顔が徐々に歪みだした。後方では驚異の粘りに拍車を駆けた藤永がキレルをもかわして二位につけてきた。正面からのカメラワークが、新谷の後方から迫ってくる相変わらず苦しげな表情の藤永を捉えている。見る間に藤永の姿が大きくなってくる。ついに37Km手前で追いつき、そのまま抜き去った。新谷に追いかける余力は既にない。
 2時間28分13秒の平凡なタイムながら藤永が大逆転のテープを切って世界選手権出場をものにした。高校時代に世界陸上の日本代表になったほどの逸材である。その後は怪我に泣かされ続け、27歳の今回が初マラソンという遅咲きのヒロインだった。
 残り5Kmという地点までトップを切り、観客の期待を集めた新谷はその後ズルズルと後退し8位という屈辱的で無残な結果に終った。マラソンというドラマ性のあるスポーツの見応えのある展開だった。