水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」(その5)2014年08月23日

 著者は、この著作で現代の資本主義が、今や終焉を迎えつつあることを論証してきた。資本の自己増殖システムである資本主義にとっての利潤獲得の場であるフロンティアが地球上のどこにも残されていない。その結果、国際的にも長期にわたるゼロ金利が続き、資本を投資しても利潤の出ないという資本主義そのものの終焉を迎えているという。著作の第3章は、そうした資本主義の終焉時代の日本の現状を分析し、アベノミクスの3本の矢についても断罪する。
 日本は、省エネ技術よって二度のオイル・ショックを乗り切り、1980年代には自動車と半導体生産で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を謳歌した。わずかに残された「実物投資空間」を制し、世界一の経済大国にのし上がった。しかし近代延命レースのトップを走ったがゆえに、資本主義の臨界点に達するのも早かった。その証が1980年代のバブルだった。
 中間層が7割を占める社会をつくることの成功した日本は、類似した消費行動で乗用車やテレビなどの普及率がまたたくまに飽和点近くに達した。また少子化が先進国の中で最も早く進行したことで、成長が問題解決の決め手にならない領域に真っ先に突入した。その結果、実物経済とはかけ離れた資産価格の高騰(土地バブル)という事態を招いた。
 バブルとは投資家が実物経済では稼げず、土地や証券といった「電子・金融空間」にマネーを注ぎ込んで引き起こされる。それは資本主義の限界と矛盾を覆い隠すために引き起こされるため、その矛盾はすぐにバブル崩壊という形で露呈する。バブル崩壊の後には、信用収縮が起き、賃金ダウン、リストラ、失業という中間層の没落を招き、国債増発、ゼロ金利政策が実施される。資本の自己増殖のためにバブル経済化も厭わないことによって、超低金利というさらなる利潤率低下を招いてしまう。
  「雇用なき経済成長」でしか資本主義を維持できなくなった現在、経済成長を目的とする経済政策であるアベノミクスは、危機の濃度をさらに高めるだけである。第一の矢「金融緩和によるデフレ脱却」は、グローバリゼーションが進み、資本が国境を越えて自由に移動できるようになって以降、貨幣を増やしても金融・資本市場で吸収され、資産バブルの生成を加速させるだけである。第二の矢「積極的財政出動」も、経済が需要の飽和点に達している現在では無意味であり、過剰設備を維持するために固定資本減耗を一層膨らますことになる。第三の矢「法人税減税や規制緩和による成長戦略」も、フロンティアのない飽和状態の下で無理に成長させようとすれば、バブルの生成を加速し、その果てのバブル崩壊と、中間層の没落を加速化させるだけである。
 我が国を含めた先進国は、「より速く、より遠くへ、より合理的に」を行動原理とした近代資本主義とは異なるシステムを構築しなければならない。いまだその「脱成長」のシステムは明確ではない。ただ新たな制度設計ができあがるまでは、「破滅」を回避し、当面、資本主義の「強欲」と「過剰」にブレーキをかけ、少なくとも財政を「均衡」させておくことが必要だ。
 以上が、第3章の要約である。