水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」(その7)2014年08月27日

 アメリカ、新興国、日本、欧州という順に、それぞれの資本主義の矛盾の蓄積が語られた著作は、いよいよ最終章を迎え、資本主義が実際にどのように「終焉」に向かい、その先にどんな社会が待ち受けているかが語られる。
 グローバル資本主義のもとで新興国や途上国の57億人が、建前上は資本主義の恩恵を受けとれる環境になった。その結果、「安く仕入れて高く売る」という近代資本主義の成立条件は崩壊し、中心にとっての周辺(フロンティア)は地球上どこにも残されていないことになった。それでも自己増殖システムである資本主義は、利潤を求めて新たな「周辺」を国内にむりやりつくりだす。アメリカのサブプライム・ローンによる国内低所得者への住宅ローン貸付とその破綻や、日本の労働規制緩和による非正規社員拡大による社会保険、福利厚生のコストカットによる利益確保がその象徴である。今や世界のあらゆる国で格差が拡大しているのは、グローバル資本主義の必然的な結果である。
 グローバル資本主義は、未来からも収奪している。「電子・金融空間」の下で有効性を喪失した財政出動が、成長を求めて繰り返されることで財政赤字を増大させ、将来の需要を過剰に先取りしている。経済成長が依存する地球環境についても、人類は数億年前に堆積した化石燃料を、産業革命以降の僅か2世紀で消費しつくそうとしている。リスクの高い新技術によって低価格の資源を生み出そうとした原子力発電も3.11で数万年後の未来にまで放射能という災厄を残してしまった。
 むきだしの資本主義の先に待ちうけているものは、リーマンショックを凌駕する巨大なバブルの生成と崩壊である。おそらくそれは中国の過剰バブルになるだろう。中国バブルの崩壊で、海外資本も国内資本も海外に逃避し、世界一の外貨準備高を誇る中国は、保有するアメリカ国債を売却する。それはドルの終焉を招く可能性につながる。
 中国バブルの崩壊後、新興国も現在の先進国同様、低成長、低金利の経済に変化し、世界全体のデフレが深刻化、永続化する。この過程で全世界規模で、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレが実現し、いやおうなく定常状態に移行し、資本主義はいよいよ歴史の舞台から姿を消す。
 以上のようなハードランニングでなく、 ソフトランディングの道はあるか。グローバル資本主義の暴走にブレーキをかけられるのは世界国家のような機能だが、現状ではそれは想定しにくい。当面G20が連帯して巨大企業群に対抗するしかない。法人税引き下げ競争に歯止めをかけたり、国際的な金融取引に課税できる仕組みを導入し、そこで徴収した税を、食糧危機や環境危機の起きている地域に還元し、国境を越えた分配機能を持たせるようにする。
 一方、日本の今後の在り方をどう考えるか。日本は現在、ストックとして1000兆円の借金があり、フローでは毎年40兆円の財政赤字をつくっている。1000兆円の借金は、国民が銀行や生命保険にお金を預けまわりまわって国債購入という形で吸収されている。その国債はゼロ金利だが、日本で豊かな生活サービスを享受できる出資金というような発想の転換をした方がよい。その上で、1000兆円を固定したままフローのマイナスを可能な限り削減し、基礎的財政収支を均衡させることが、喫緊の課題だ。今は増え続けている預金も、団塊世代が貯蓄を取り崩し始める2017年あたりを境に減少に転じると予想されている。残された時間は3~4年しかない。
 ゼロ金利、ゼロインフレ社会の日本は、いち早く定常状態を実現することが可能だ。必要のないものは、値上がりがないのだから購入する必要もない。必要なものが必要なときに、必要な場所で手に入れるという豊かさを手にする社会でもある。そのためには「より速く、より遠くへ、より合理的に」という近代資本主義を駆動させてきた理念を逆回転させ、「よりゆっくり、より近くへ、より曖昧に」と転じなければならない。その先にどのようなシステムをつくるべきなのかは、私自身にもわからない。