水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」(エピローグ)2014年08月31日

 水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」の書評(というより要約といった方が良い)を、7回に渡って記事にしてきた。異例の入れ込みようというほかはない。もちろん、それには個人的な想いもある。その想いこそが本来の書評と言うべきだろう。エピローグとしてその点を記事にした。
 想いの第1は、この著作が私の問題意識にある現代社会の矛盾や軋轢の背景を、見事に解き明かしている点である。リーマンショックとバブル崩壊、中国バブルの行く末、新自由主義と規制緩和、労働規制緩和と非正規社員の拡大、中間層の没落、格差社会と貧困化、アベノミクスによる危機の深刻化等々である。こうした事象が、説得力ある分析をとおして、グローバル資本主義のもとでの資本の自己増殖システムの帰結として語られる。
 第2は、著者が、特定の立場や思想を持った人物でなく、ごく普通のエコノミストであるという点である。証券エコノミスト、内閣府官房審議官を経て、日本大学国際関係学部教授という現職にある経済学者である。マルクスの唯物史観による「資本主義に内在する矛盾から必然的に社会主義革命に移行する」といった視点からはおよそかけ離れた「資本の自己増殖システムの帰結」という切り口での主張である。それだけに資本主義の終焉の実相の深刻さが伝わってくる。
 第3は、終焉間近の資本主義の危機的状況は解説されるものの、資本主義システムに代わる新たな社会システムについての具体像は提示されていないという点である。唯一、ゼロ成長社会である「定常化社会」を提示するが、その具体像は明らかでない。「定常化社会」をキーワードにネット検索をすると広井良典著「定常型社会」という著作がヒットした。すぐに購入し現在読み継いでいる。水野氏の著作の13年前に発行されたもので、水野氏の「定常化社会」の下敷きにある概念と推察される。定常化社会の実像がかなり具体化されて語られている。今後この著作についても順次記事にしていきたい。