高橋克彦著 「炎立つ(弐)」2015年06月14日

 第一巻では陸奥守・藤原登任が率いる朝廷軍が「鬼切部の戦い」で阿倍一族に壊滅的な敗北を喫するまでの経緯が描かれた。 この屈辱的な事態を受けて朝廷は、源氏の総帥・源頼義を陸奥守に任命することで雪辱をはかった。
 第二巻は安倍一族と源氏の永い宿命の対決・前九年の役の始まりの物語である。源氏の勢力拡大に腐心する頼義は様々な策謀をもって阿倍氏との闘いを引き起こそうとする。闘いで勝利することこそが公家社会が支配する朝廷で武家勢力の存在感を高め、棟梁たる源氏の勢力拡大につながるからである。蝦夷の後裔たる阿倍氏側に立ったこの物語では、頼義は敵役として描かれる。
 頼義は陸奥守としての任期が終了する間際になってようやく阿倍一族と闘いの火ぶたを切るという策謀を果たす。同時に阿倍一族である津軽の安倍富忠の離反にも成功する。忠富説得に赴いた阿倍氏棟梁・頼時は忠富陣の伏兵に遭い横死する。頼時戦死の勢いをかって頼義は阿倍氏との無謀とも思える乾坤一擲の真冬の闘いに挑む。頼時の後を継いだ貞任は黄海(きのみ)の地で頼義軍を迎え撃つ。冬期の遠征で疲弊し、補給物資も乏しく兵力でも劣っていた頼義軍は大敗を喫し、頼義は長男・義家を含めたわずか七騎でからくも戦線を離脱する。
 第二巻は、この「黄海の戦い」の頼義の無残な敗北をもって幕を閉じた。物語の展開過程で阿倍氏陣営には陸奥守の血筋を引き安倍頼時の娘婿である藤原経清が参加し、その実子・清丸の誕生の場面も用意する。奥州藤原氏の祖となる人物の登場である。阿倍氏と奥州藤原氏、出羽・清原氏との複雑で興味深い関わりの伏線が巧みに準備されている。