藤沢周平著「獄医 立花登 手控え」全四巻2012年07月09日

 1ヵ月ぶりの書評である。この間、読書をしていなかったわけではない。藤沢周平著作の「獄医 立花登 手控え」シリーズの全四巻をまとめ読みしていた。「春秋の檻」「風説の檻」「愛憎の檻」「人間の檻」がそれぞれの作品名である。各巻に5~7の物語が、全巻で24の物語が収録された連作集である。
 講談社文庫版のこのシリーズの各巻の巻末には「解説」と「(作者の生前の)写真」と「藤沢周平 年譜」が掲載されている。今や私にとって藤沢周平は他のどの作家よりも偉大で大好きな作家になっている。その人物の在りし日の10枚の写真を懐かしく眺めた。会ってもいないのに「懐かしさ」を感じさせる貌だった。藤沢作品がもたらす「郷愁」がそんな気分にさせるのだろうか。
 それにしても多彩な作家である。今回の主人公は江戸小伝馬町の若き牢獄医・立花登である。江戸時代の牢獄や医術の専門的な叙述がさりげなく描かれている。時代考証に関わる資料の読み込みの深さが物語の奥行きの深さになっている。作家とは単なる文章家ではなく研究者でもあることを教えられる。
 このシリーズであらためて知ったのは作者の女性の好みである。物語のそれぞれに魅力的な女性が登場する。どの女性も総じて美人で男心をくすぐる色っぽさを漂わせている。ほっそりしているものの豊かな尻と胸をもっている。どうもこれは作者・藤沢周平の好みのタイプなのではないかと思ってついニンマリしてしまう。
 登が寄生する叔父夫婦には一人娘おちえがいる。これまた美人であるが年上の従兄・登を呼捨てにする驕慢な娘である。この設定が実にいい。そのおちえが登に危難を救われたりしながら徐々に心を通じ合う。そして物語の最終章は読者が期待した通りに登とおちえが結ばれる場面で幕を閉じる。見事なエンディングである。

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