周平と謙三2014年03月07日

 北方謙三に嵌っている。ここのところ彼の著作の文庫本6冊ばかりを読み、今も読み継いでいる。いずれも南北朝時代を舞台に男の夢をテーマとした物語である。どちらかと言えば現役時代に読み耽った司馬遼太郎や堺屋太一の歴史小説の系譜に属する作品である。
 定年前後の頃からは藤沢周平の時代小説に夢中になり、ほぼ読み尽した。藤沢作品の醸し出す穏やかさ、優しさ、人情の襞に浸りながら、もう司馬遼太郎の世界に戻ることはないだろうと思っていた。それは穏やかで人情の襞に包まれた老後スタイルへの憧憬の裏返しだった。事実、リタイヤ直後の日常生活は平穏で平坦なものだった。
 リタイヤ生活も5年目を迎えている。リタイヤ直後の平穏な生活にさざ波が寄せてきた。定年直前から就任した労働委員会労働者委員の役回りが、労働現場の苛酷な現実を運んできた。その役回りは経験を積むにつれ自分自身の志やポリシーを問い直させるものとなった。同じ頃に就任した民生委員の役回りは、その後の地域活動での多様な役割分担を運んできた。そして今、地域の高齢化問題の抜本的な環境整備というテーマに直面している。老後の楽しみとして始めたHP山口風土記は、公民館講座の講師役をもたらし、山口ホール運営委員の役回りを招いた。そのことがミュージカル劇団設立の発起人に名を連ねさせ、今や有間皇子物語公演の後援会側の統括者の役回りにまで及んでいる。
 北方謙三作品の夢を語り夢を追うストーリーは、平穏では済まなくなった自分の老後生活での志の達成を鼓舞してくれている。労働者委員の任期を終えたものの、地域の高齢化の対応と有間皇子物語公演は正念場を迎えている。今必要なのは周平氏の穏やかさよりも、謙三氏の夢を追う男の苛烈さなのだろう。自身の環境と心境が作品を選ばせている。