甲子園会館で楽しむ「はじめての能楽」2014年03月24日

 西宮文化協会の会報で「はじめての能楽」という催しがあることを知った。会場の武庫川女子大学甲子園会館は、かつて「西の帝国ホテル」と称された旧甲子園ホテルである。一度は見学してみたかった建物で能楽観賞もできるという魅力的な催しである。地域の同世代の知人と二人ででかけた。
 JR甲子園口近くのコインパーキングに駐車し、駅前のイタリアンレストランで昼食をとった。会場に到着したのは1時の開場を10分ほど過ぎた頃だった。建物玄関前には入場者が列をなし人気のイベントであることを窺わせた。事実、開演時間には会場のメインホールを定員150名いっぱいの観客が席を埋めた。
 盛りだくさんのプログラムである。最初に武庫川女子大学のたつみ教授のお話「平家と能の関係」があった。わずか15分の持ち時間で、平家物語にこめられた能との関わりを面白く解説してもらった。
 続いて観世流シテ方の梅若基徳さんによる「面・装束の解説と謡のワークショップ」だった。能の面(おもて)の「般若」は製作者の名前が由来であること、「 しかめっ面」の語源は、「顰み(しかみ)」という面の名前であることなど初めて知った。ワークショップでは、「霞に紛れて失せにけり」という謡の一節を会場全員で唸った。「みんなでやれば恥ずかしくない」を実感した。
 その後、笛方、小鼓方、大鼓方による囃子の解説もあった。若い女性の小鼓方の軽妙なトークで囃子にまつわる多くのことを学んだ。驚いたのは大小の鼓の音の違いだ。てっきり大鼓が低い音、小鼓が高い音とばかり思っていたが真逆だった。大鼓は皮を固く掛けて出演1時間前に炭火で皮を炙って張りつめ、鋭い高音を響かせる。小鼓は紐をゆるく掛け、打つ手の強弱で「ポ」「プ」「チ」「タ」と呼ばれる4種の音を使い分ける。等々である。
 10分ほどの休憩中に甲子園会館の内外を見学した。昭和5年竣工の国登録有形文化財である。左右対称の重厚で壮麗な建築美を目の当たりにした。今回の会場のメインホールの天井にはちょうど能舞台を連想させる吊り格子状の装飾があり、印象的だった。
 休憩後、メインの能楽「清経」の上演となった。演者は観世流シテ方の上田拓司さんである。面の節穴の僅か5mmの視界から繰り出される独特の所作に見入った。ゆったりと緩慢な動きの中に時に繰り出される荒々しい所作が修羅場を巧みに演出する。30分という短い舞台だったが能の醸し出す幽玄の雰囲気のさわりを味わった。
 ちょうど2時間の公演を観終えて、魅力たっぷりの催し会場を後にした。