高橋克彦著「天を衝く」➂2015年10月10日

 高橋克彦著作の全三巻「天を衝く」の第3巻・完結編を読んだ。第3巻は九戸政実の南部家棟梁・信直への離反を告げる場面で幕を開ける。それは実質的には南部家への宣戦布告であり、その背後の権威である秀吉に対する造反の表明でもあった。
 政実の南部家との決別の報を聞き、政実に心を寄せる南部家に属する豪族たちが相次いで九戸党の本拠・二戸城に駆けつける。その兵力は総勢6千余りにも膨れ上がる。緒戦の戦いを政実の卓越した策で勝利した九戸勢は南部家の本拠・三戸城包囲網をまたたくまに築いてしまう。その報を知るや信直は即座に三戸城を捨て包囲網脱出を図る。各地に本拠を移しながら勢力維持を保つ信直と雌雄を決することができないまま戦況は膠着状態に陥る。
 そんな情勢下で秀吉の政実討伐のための信直援軍派遣の命令が下る。関白秀次を総大将とする5万もの派遣軍であり周辺豪族の援護を合わせると10万にも及ぶ大軍である。この報を受け政実は堅牢な二戸城に拠って立つ籠城策を採る。そのため1万5千にも膨らんだ九戸党に加担する勢力を長期の籠城に備えた兵糧確保のため5千にまで圧縮する。ここに至って5千の兵力で籠城する政実軍に10万の大軍で包囲する秀吉軍という前代未聞の攻防戦が火ぶたを切る。わずか5千の兵で秀吉に喧嘩を売った男・九戸政実の登場である。
 秀吉軍の奇襲攻撃や総攻撃を幾度も跳ね返し政実軍は優位な情勢のまま籠城戦を維持する。とはいえ10万の軍を退けても天下取りを終えた秀吉軍には更に10万が投入できる現実は変わらない。政実は最終的に5千の兵の命と引き換えに自身の首を差し出すという和睦に応じる決断を下す。秀吉の小田攻めの前に小田軍はなすすべもなく戦わずして降伏した。そんな秀吉相手に政実は10万もの大軍の城攻めを幾度も闘い抜いた。それこそが秀吉の治世に対する天下に向けての異議申し立てだった。陸奥の魂を天下に知らしめた。
 最終巻の秀吉軍との攻防は圧巻だった。優位な情勢下で敢えて和議を受入れることの意味についても説得力のある描写で納得させられた。九戸政実という歴史上の人物の途方もないスケールを満喫しながら読後の余韻に浸った。

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