オヤジ二人のカウンター席2008年12月10日

 3ヶ月前に奥さんを亡くしたばかりの友人と久々に二人で呑んだ。誘いを受けて日程を労働委員会の定例会の今日に合わせてもらった。夜6時に地下鉄御堂筋線・本町駅を上った所で待ち合わせて、以前行ったことのある「囲炉裏料理・西海」という店に案内した。
 前回は四人だったので囲炉裏のある個室だったが、二人連れの今回はカンター席に案内された。真っ赤な炭火の入ったコンロの上でオーダーした素材を自分たちで網焼きするという趣向である。ホッケ、ウルメ、シシャモ、イカなどの一夜干しや地鶏串を網に載せながらジョッキを傾けた。カウンター席はオヤジ二人がしみじみ語り合いながら杯を重ねるのに格好の舞台だった。
 葬儀後初めての懇親の機会だった。私が友人夫妻の媒酌人を務めた間柄でもある。自ずと話題は亡き奥さんとの晩年の思い出から始まる。4年半に及ぶ闘病生活の果ての53歳という若すぎる死だった。家庭生活を犠牲にしても責任あるポストの激職を仕事一筋でこなしてきた友人だった。奥さんからすれば決して良い夫とは言い難かったかもしれない。その彼が3月に激職から一歩離れたポストに移り、ようやく一息つける立場になった。その頃から夫婦揃っての海外旅行などが話題になりだした。その3ヶ月後の奥さんの病魔の再発だったという。友人の欠かすことのない朝のひと時の病室訪問の日々が始まった。恐らくそれまでの夫婦生活で交わした会話を超える質と量の会話が、死の直前まで交わされたに違いない。その3ヶ月間を友人は良き夫のラストチャンスとして生かし切った筈だ。とはいえ定年を目前にしてパートナーを失ったことの痛手は余りにも大きい。彼が描いていた老後スタイルは根底から覆されたのではないか。
 「同居の子供たちの帰りが遅い時など、ひとりで呑みに行くことがある。これまで考えたこともないことだ。誰もいない家でひとりで食事をする気になれないから」。失ったものの大きさと哀しさがこめられた彼の呟きだった。