瀬戸際リングの見事なファイト2008年12月24日

 昨晩、ボクシングのWBCフライ級タイトルマッチを観た。日本人同士の世界戦である。どちらを応援するかでなく、どんな闘いぶりを見られるかが観戦のテーマとならざるをえない。その上、チャンピオン・内藤が34歳、挑戦者・山口が29歳というボクシングの世界ではともにベテランというか引退間際の年齢である。双方とも負ければ「引退」という瀬戸際のリングである。観戦テーマのファイトの中味も期待薄だった。
 試合前の私のこうした予測は見事に裏切られた。両者の瀬戸際感がいかんなく発揮された見事なリングだった。試合展開は終始チャンピオンの優勢のうちにラウンドを刻んだ。リーチで勝るチャンピオンがうまく間合いを取って挑戦者の有効打を封じていた。それでも挑戦者が時おり懐に飛び込んで有効打を放つ。ひょっとしたらの期待感を最後まで持続させた挑戦者の闘いぶりを、いつの間にか声援している自分に気づいた。
 圧巻は何といっても最後となった11ラウンドだ。チャンピオンの的確なパンチを何度もまともに受けながら、挑戦者がスピードの衰えたパンチを尚繰り出し前に詰めていく。その時だ。パンチを貰った挑戦者がバランスを崩して無防備な前屈みの左半身を不用意にチャンピオンの前に晒してしまった。試合巧者のチャンピオンが見逃すわけはない。狙いすました右ストレートが山口の左顔面を捉えた。スローモーションのようにゆっくり膝をつく山口。この試合初めての劇的なダウンシーンだ。山口のカウントエイト後のファイティングポーズで再開。ダメージを気力で振り切ったかのように再び前に出る山口。通常ならクリンチで逃れる場面だ。挑戦者は微塵もその気振りを見せない。そのファイト振りを称えるアナウンサーの声援があがる。しかし山口の顔面をチャンピオンのパンチが的確に容赦なく捉える。棒立ちになった山口を抱え込むようにレフリーが割って入った。テクニカル・ノック・アウトという形の決着の瞬間だった。
 山口のあの打たれても打たれても前に進むファイトはどこからくるのか。気力だけで向ってくる挑戦者を容赦なく叩き潰す内藤の非情なファイトは何なのか。後がない瀬戸際に立たされた果てに生まれる二人の本物のファイトが見事なリングを生み出したと思えてならない。
 
 ボクシングというスポーツには個人的な思い入れがある。学生時代に思うところがあって3回生の身でボクシング部に入部した。過酷で悲惨でそして滑稽な体験だった。
 「3プン3ラウンド・・・判定負け」 http://www.asahi-net.or.jp/~lu1a-hdk/boxing.htm