八上俊樹著「ハレの日 介護施設」2019年03月05日

八上俊樹著「ハレの日 介護施設」を読んだ。埼玉県下で運営されている六つの介護施設「ソレアード」を舞台としたエピソードを紹介したものだ。著者は既に1年前に同じソレアードを舞台とした「介護施設の花嫁」という著作を発刊しており、この著作はその続編である。
 今回はソレアードに集う「人」にスポットを当てた物語だという。六つの章からなる著作は個性豊かな様々な「人」が登場する。成功をおさめた優れた実業家で晩年にソレアードの顧問を務めソレアードで看取られたナオさん。ソレアードの調理部門を担当するキャリアのある二人の料理人。ソレアードのイトウ代表、代表の父親で創業者の「会長」、ソレアードの管理部門を支えた姉といったファミリーたち。ソレアードのひとつの施設の建物所有者で苦しい運営を支え続けたカネコオーナー。創業期のソレアードの施設の利用者であるウチノさん。施設の夏祭り用の手づくり神輿づくりに奮闘するエリート建築士だった利用者ガウディさんと女性スタッフのハルヤマさん等々。それぞれの人物紹介を通してソレアードの利用者に徹底して寄り添う運営の実態が浮かび上がる。
 二人の料理人は介護施設特有の味や質より栄養や安全を優先した料理の在り方に挑戦する。介護施設の制約の中でも美味しいものを楽しく食べられる料理の実現である。考えてみれば高齢の施設入居者にとって食事はかけがえのない楽しみである。そのことにこだわってこそのプロの料理人なのだろう。
 古参の利用者ウチノさんが言う。「今までここじゃない施設にいた時は毎日死にたい死にたいと思っていました。今は、ここで死にたいと思っています」。以前の拘束・固定生活の施設から過ごしたいように過ごせる自由なソレアードに移った実感だった。そして希望通りウチノさんは皆と一緒のおやつの時間に眠るように最後を迎えた。
 2冊のソレアード物語を読んで、介護施設の望ましい在り方を学んだ。我が家での安らかな最後が究極の願いではあるが、介護施設での晩年も避けがたいことも想定のひとつである。介護施設選びの示唆に富んだ著作である。

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