大阪府副知事を迎えた異業種交流会2009年06月10日

 昨晩の異業種交流会の6月例会は異例尽くめの例会だった。まず講師が現役の大阪府副知事というかってない著名人だった。幹事の一人・M氏の中学時代の同級生という縁で来場頂いた。次に著名人講師ということもあり30名という多数の参加者を得た。会場もまたいつもの料理屋の大部屋が、難波駅前の一等地の「ホテル一栄」の円卓を並べた宴会場が準備された。ついでにいつもの会費がアップしたことも追記せねばなるまい。
 7時過ぎスピーチの開会が告げられる。講師紹介ではM氏から「橋下知事をサポートする上での本音の苦労話などもぜひ・・・」という注文が入る。「将来ビジョン・大坂」と題したレジュメと同じタイトルのパワーポイント作成資料、府発行パンフレットが参加者に配られる。小河大阪府副知事の登壇である。還暦を迎えたはずの年齢とは思えない若々しいそして優しさを漂わせた紳士のスピーチが始まった。
 「3人の副知事のなかで唯一の前知事時代からの生き残りです」と、いきなり率直な発言がついてでる。「技術屋出身という特性が重宝されているのでしょう」との自己分析だが、その面はあったとしても無論それだけではあるまい。そこの所をじっくりと拝察しよう。「橋下知事との初めての出会いは彼が知事候補者だった時でした。名刺交換の後の彼のスピーチでは、『さっきも副知事さんにお会いしましたので余り大阪府の悪口も言えませんが・・・』と早速話題のネタにされました。テレビ出演の多かった人だけにさすがにツカミの鋭さは一流です。受け狙いの発言が多いのも事実ですが、人一倍勉強家です。勉強の結果、間違いだと判断した場合の撤回の素早さも見事です。他の政治家にない魅力を備えた人です」と、側近でもある副知事からみた橋下観が語られる。若くて異色の型破り知事の女房役の一人である。苦労がないわけではない筈だ。そんな気持ちを微塵も感じさせず、聴衆が知りたいと思っている筈のことを、この人ならでは言い方で媚びることなくサラリと言ってのける。こうして一気に聴衆を引き込むツカミの鋭さは、なかなかどうして大したものだ。 
 スピーチの本題は、財政再建を中心課題に華々しくもドラスティックに発進した「橋下府政の現状と今後」を、誠実にアナウンスしようということだったと思われる。そのためにまず「橋下改革」のベースでもある「大坂維新プログラム」の現状が述べられ、財政再建、政策創造、府庁改革の三つのミッションが触れられる。興味深かったのは府庁改革での情報公開という点だった。「部長会議ではテレビカメラが入るのが当たり前になった。会議後、モニターを見ていた議員による幹部職員のチェックが入ったりする。おかげで当初は萎縮気味だった会議が積極的な議論の場に変りつつある」。府庁改革の具体的な成果のわかりやすいコメントだった。かつてゴルバチョフが巨大官僚機構と化したソ連を情報公開手法で改革を試みたペレストロイカを想起させられた。
 副知事がむしろ訴えたかったのは、スピーチのタイトル「将来ビジョン・大坂」が示すように「改革の先に目指すもの」だったに違いない。橋下改革はともすれば「切り捨て」部分に焦点が当たりがちである。1年3ヶ月を経過し財政再建に一定の道筋をつけた今、あらためて「維新の先の未来像」が問われている。これに答えたものが「将来ビジョン・大坂」である。産業、環境、文化、府民生活、教育の各分野でのビジョンが述べられる。とりわけ自ら所管する環境、都市整備に関わる分野のアナウンスには力がこもる。中でも「大坂ミュージアム」構想は現実的で夢のある構想に思えた。府下の現にある古い街並みなどの資産を発掘・再発見し、活用し楽しむための仕掛けを施し、他の資産とストーリー性を持たせて結びつけ、発信しようというものである。副知事から頂いた「大坂ミュージアム構想」と大書された名刺は裏表が全く同じという不思議なデザインである。ところがスピーチで種明かしがあった。名前の横の西国街道風景の写真の片方には風情を壊す見苦しい電線が走っている。土木出身の技術者の目にはミュージアム構想実現の重要な課題に写るようだ。この構想にかける副知事の想いの深さが伝わってくる。
 1時間ほどのスピーチが終った。「府政改革と将来ビジョン」のトップセールスマンとしての見事なトークだった。随所に聴衆を惹きつける子ネタを配し、短時間で効率よくテーマの全体像が語られた。それでいて自身の所管事項や想い入れの深い点はきちんとアピールすることで存在感が示される。前知事から二代に渡る異例の副知事就任は伊達じゃない。「技術屋出身の特性」を越えた有能な行政マンが聴衆の惜しみない拍手の中で降壇した。